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32.茶色のテーピング
撲は体ひとつで行う格闘技。身に付けるのはマワシのみ。ケガや生傷が絶えないのも致し方あるまい。少しでもケガを防止するために、股割りで体を柔軟にしたり、四股で強い足腰やバランス感覚を養ってはいる。また最近はケガを予防したり、故障箇所を保護するためのテーピングもずいぶん普及している。
ひと昔と較べても、テーピングをして土俵に上がる力士がずいぶん増えたように思う。公傷制度が無くなり、ケガをして土俵を離れれば、どんどん番付が下がってしまう世界だ。ケガの防止は、いくらでも徹底しておきたいことだろう。
ーピング姿の力士が目立つようになったのは、その色のせいもあるだろう。かつて力士は、テーピングに限らず、包帯やサポーターを使う場合でも、ウーロン茶をかけたり浸したりして肌色に染めていた。遠目から判りにくくするためだ。
私は、力士たちがいつもくすんだ色のテーピングをしているのは、常に交換していないからだと思っていた。稽古や日常生活を通してテーピングが汚れたのだろうと。そうではなかった。力士たちは、できるだけ人目につかないよう、テーピングを変色させていたのだ。こんなことをするスポーツ選手は、おそらく力士ぐらいのものだろう。
挿絵と文章は関係ありません
在は真っ白なテーピングをする力士が増えた。テーピング理論の浸透によって、テーピングはカッコ悪いことでも、女々しいことでもないと思われるようになってきたからだろうか。しかし私はどちらかというと、かつてのウーロン茶を浸した力士の心意気のほうが好きだ。
力士は基本的にきれいであるべきだと思う。スマートでハンサムであれと言っているわけではない。締め込み一本で、他に何も体に付けない姿を「美しい」と思うのだ。そんな力士が登場するからこそ、相撲は、スポーツを超えた伝統のエンターテイメントたり得るのではないだろうか。
士は食わねど高ようじ。
たとえひもじい思いをしていても、ようじを咥えて満腹なそぶりをすることを言う。見栄を張るとか、いいかっこうをするのとはやや趣が異なる。人に弱みを見せない、泣きごとを言わないといった強がりの美学だ。
茶色のテーピングの根底には、武士の高ようじと同じ意識が流れている。たとえケガが恐くても、どんなにケガした部分が痛くても、テーピングをしない強がり。テーピングを巻くときは、人に気付かれないよう、ウーロン茶で変色させる強がり。そんな意味の無い、しかしとても共感できる強がりの精神が薄れていくことに、オールド相撲ファンとしては一抹の寂しさを感じてしまう。
(2005/11/01)
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