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30.座布団は何故に舞う
青龍が久しぶりに負けた。連勝記録は24でストップしたが、ファンにとっては3月場所の13日目以来、実に84日ぶりに見る朝青龍の敗戦であった。
先場所中日の結びの一番。琴欧州の豪快な上手投げに、無敵の横綱・朝青龍が頭から落ちた。立行司・木村庄之助の軍配が琴欧州に上がった瞬間、場内は割れんばかりの拍手喝采。同時に、大量の座布団が宙を舞った。
座布が舞うのは、大相撲独特の光景だ。毎日起きる現象ではなく、何らかの指示によって行われるものでもない。座布団が舞うタイミングは決まっていて、必ず「その日最後の取り組み」が終わった直後。しかも、大番狂わせなど何らかの劇的な決着がついた瞬間に限られる。
連勝街道をばく進していた朝青龍が、過去一度も負けたことのない琴欧州に敗れた…などという結末は、まさに座布団が舞うために作られたようなものだ。観客の心理は、若い「イケメン」力士である琴欧州に対する賞賛の気持ちがあったろう。ふてぶてしい横綱に対する腹いせもあったろう。誰かが示し合わせずとも、誰もが座布団を投げたくなる。その瞬間の高揚した気分を説明するのは難しい。
挿絵と文章は関係ありません
ロ野球では、そうした気分はあまり味わえない。私設応援団が最前列に陣取り、選手や状況に応じた応援方法を観客に強要しているからだ。あるいはラッキー7(7回裏の地元チームの攻撃)になると、巨大スクリーンを通じて観客に手拍子を求めるのが通例となっている。サッカー、バスケットボール、バレーボールなどでも、示し合わせた応援が行われている。
大相撲は違う。全ての声援や拍手は、自然発生的にわき起こる。横綱昇進に大手をかけた魁皇に「魁皇コール」が起きたこともあるが、それとて自然発生だ。それだけに興奮の度合いが違う。見ず知らずの観客同士が、一期一会の場で臨場感と一体感を共有しつつ体現する喝采。「座布団投げ」はその極致だ。
く言う私もその現場に居合わせたことがある。平成2年9月場所の9日目、私は「星取クイズで優勝者を出した道場主」さんを引率して両国国技館にいた。結びの一番は大関霧島と平幕栃乃和歌。栃乃和歌の寄り切りに大関が土俵を割った。直後、座布団が舞った。
奇しくも私たち一行はその日の朝、春日野部屋の朝稽古を見学していた。稽古後、栃乃和歌に頼んで記念写真におさまってもらった。その栃乃和歌があげた銀星なので、嬉しさもひとしお。やおら自分の座っていた座布団をフリスビーのようにくるくる回しながら、土俵に向かって投げつけた。自分より後方の座席から投げられた座布団が、どんどん足元に落ちてくる。今度はそれらを拾っては投げ、拾っては投げた。
「座布団を投げないでください」という場内放送が、「もっと座布団を投げろ」とあおっているように聞こえるのはなぜだろう?何より、なんで我々は座布団を投げなければならないのだろう?自分でもやっておきながら、その意味がいまだに解からない。
(2005/08/01)
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