episode 46: 無言の戦友(番外編)

を愛し、乗馬をたしなむ身として、木村氏の『馬っこ−馬医50年』を読むと、胸の詰まるような名文がたくさん登場します。ここにその一部を抜粋します。
子なき母「徳二」と名づけ育ていし 駒も召さると友は知らせぬ
とこしえに健やかなれと祈りつつ 別れ惜しみてたてがみ撫でぬ
この馬もわれになつきて肥り来ぬ 共に御国の盾と征かまし
わが身さえ心に添わぬこともあれ 打つな懲らすな物言えぬ馬
年老いし愛馬の汗を思いやり 険しき山道 下馬で行く兵
雨に濡れ泥にまみれて砲車引く 愛馬の尻を涙して打つ
水飲みの少なき夜は眠られず 深夜に起きて水飼いに行く
せせらぎを見つけてうれし われよりも馬に汲まんと水嚢を解く
けものながら神に近けり 見よ兵と砲火をくぐり弾丸(たま)運ぶ馬
ふるさとの便りに秘めしお守りを 病める愛馬にかけて祈りぬ
共に来て共に死なんと誓いしに 青のみ散りし雪の国境
…。
この文章の書き始めには「短歌を5首ぐらい紹介しよう」と思っていましたが、どれを選んだものか悩んだあげく、10首ぐらい載せてしまいました。胸にしみる短歌が、まだまだあります。他にも俳句や詩がたくさん載っています。
戦地で充分な栄養も休養も与えられぬまま、いったいどれほどの馬が死に絶えたことでしょう。鳴り響く砲弾の轟音にも臆せず、あるいは銃創で満身創痍になりながら、馬はどんなこと思い死んでいったのでしょう。
同時に、馬に接していた兵隊たちの優しい心遣いや、悲嘆のほども、よく判ります。兵たちは、決して馬を「道具」として扱っていなかったことが判ります。起居を共にし、時には自分のことも省みず馬をいたわる気持ちを思うとき、改めて戦争の悲惨さに思い至ります。

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