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49.新しき「古さ」
場所が始まる直前、1本の電話がかかってきた。電話の主は、星取クイズの申込用紙を出した後で旭天鵬が休場することを知り、別な力士に書き換えるよう頼もうとしたのだ。ところがその、代わりの力士の名前が出てこない。
   「誰だったかな、ほら、あの武士みたいな力士」
…そのヒントでピンときた。「もしかして豊真将ですか?」と尋ねたら、当たっていた。「武士みたいな力士」とは言いえて妙。なるほど豊真将はそんな感じだ。
士と言っても、荒々しい野武士という感じではない。わずかな俸禄をもらってつつましく暮らしているような武士。藤沢周平の小説に出てくるような、実直で清貧な武士であろう。
当社の女子社員は「白黒写真が似合いそう」と表現した。これもウマい。どこがどうという訳でもないが、豊真将には「古さ」が漂っている。古き良き時代のお相撲さん。派手な取り口でもなく、変化もせず、愚直なまでに頭を下げて低く低く、前へ前へ出る相撲内容も然り。あの「古さ」が、今となってはまず見られないだけに、逆に新鮮だ。
挿絵と文章は関係ありません
真将の一挙一動が好きだ。シコを踏む前にやるかしわ手の打ち方、さり気なくも長く伸びる塩のまき方、賞金を手にするときの手刀の切り方…その一つ一つにけれん味がなく、実直さがにじみ出る。
最も好感を抱くのは、土俵に礼をした時だ。両足を揃え、まっすぐに背筋を伸ばしたあと、深々とお辞儀をする。言葉にすると、まるで軍隊の兵士のようなキビキビした動きを想像させてしまうが、そうではない。一連の動作はとても自然に行われている。負けた後でさえ、悔しさを微塵も表情や態度に表さず、実に丁寧に一礼する。その清々しいこと!
私は、心のどこかで豊真将が負けるところを見たがっているところがある。負けてなお礼を尽くす、あの姿が見たいからだ。
近は負け際の悪い力士が目に付く。まるで相手に非があるかのように睨んだり、どこかを痛めたのか早々に土俵を下りたりする力士だ。礼の仕方も無様だ。相手に頭を下げるのがよっぽど屈辱的なのか、負けた時はわずかに首を傾げるだけで終わる幕内力士が、少なくとも7人いる。負けたのがよっぽど悔しいのか、ガクンと首を下げたり、うなだれたままでいる力士が5人はいる。いずれも醜い。
豊真将が登場するまで、最後の礼まで注目することはなかった。誰がどんなふうにお辞儀するのか知らなかった。だが今はそれが妙に気になる。負けたあとの最後の一礼に、そのほんの一瞬、力士の本性が現れるのを知ったからだ。
(2007/05/01)
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